【カタルーニャ国際賞】村上春樹 反原発演説全文【文字おこし】


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さて、ヤフーニュースにもなった、
村上春樹の「反原発」演説を、
タイピング練習のつもりで、「文字おこし」してみました。

東日本大震災、津波(大津波)という天災と、
福島第一原発事故(東京電力、原子力発電所)という人災。

そして、第二次世界大戦における、
広島、長崎への、原爆投下。

これらを連結した、言葉の力。

事実確認、歴史認識、
賛否両論あるかもしれない内容。

しかし、あえて、そこに踏み込んだ演説をした、
小説家・村上春樹の心意気は、あっぱれ。


YouTube(ユーチューブ)にも、動画があると思いますが、
ぜひ、一度、ご精読ください。


《【カタルーニャ国際賞】村上春樹 反原発演説 全文》

この前、僕がバルセロナを訪れたのは、二年前の春のことでした。

サイン会を開いたときに、たくさんの人が集まってくれて、
一時間半かけても、サインしきれないほどでした。

どうして、そんなに時間がかかったかというと
たくさんの女性読者が、ぼくに、キスを求めたからです。

僕は世界中のいろんなところで、サイン会を
開いてきましたが、
女性読者にキスを求められたのは、
このバルセロナだけです。

それひとつをとっても、
バルセロナがどれほど素晴らしい都市であるかが、
よくわかります。

この長い歴史と高い文化を持つ、美しい
都市に戻ってくることができて、
とても幸福に思います。

ただ、残念なことではありますが、
今日はキスの話ではなく、
もう少し深刻な話をしなくてはなりません。

ご存知のように、さる3月11日午後2時46分。

日本の東北地方を巨大な地震が襲いました。

地球の自転がわずかに速くなり、
1日が 100万分の1.8秒短くなる
という規模の地震でした。

地震そのものの被害も甚大でしたが、そのあとに襲ってきた
津波の残した爪あとは、すさまじいものでした。

場所によっては津波は、39メートルの高さにまで達しました。
39メートルといえば、普通伸びるの10階に上っても
助からないことになります。

海岸近くにいた人々は逃げ遅れ、
二万四千人近くがその犠牲になり、
そのうちの9000人近くはまだ、行方不明のままです。

多くの人々は、まだ、
冷たい海の底に今も沈んでいるのでしょう。

それを思うと、もし、自分がそういう立場になっていたら、と思うと
胸が締め付けられます。

生き残った人々も、
その多くが家族や友人を失い、
家や財産を失い、コミュニティを失い、
生活の基盤を失いました。

根こそぎ消え失せてしまった街や村も
いくつかあります。

生きる希望をむしりとられた人々も、
数多くいらっしゃいます。

「日本人である」ということは多くの自然災害と
一緒に生きていくことを意味しているようです。

日本の国土の大部分は、
夏から秋にかけて、
台風の通り道になります。

毎年、必ず、大きな被害が出て、
多くの人命が失われます。

それから、各地で活発な火山活動があります。

日本には、現在、108の活動中の火山があります。
そして、もちろん地震があります。

日本列島は、アジア大陸の東の隅に
4つの巨大なプレートに乗っかるような格好で
危なっかしく、位置しています。

いわば、地震の巣の上で生活を送っているようなものなのです。

台風がやってくる日にちや道筋は
ある程度わかりますが、
地震は予測がつきません。

ただひとつわかっているのは、
これがおしまいではなく、近い将来、
必ず、大きい地震が襲ってくるだろう、ということです。

この20年か、30年の間に、東京周辺の地域を
マグニチュード8クラスの巨大地震が襲うだろうと、
多くの学者が予想しています。

それは1年後かもしれないし、明日の午後かもしれません。

にもかかわらず、東京都内だけで、
1300万の人々が普通の日々の生活を今も、
送っています。

人々は相変わらず満員電車に乗って通勤し、
高層ビルで仕事しています。

今回の地震のあと、東京の
人口が減ったという話は耳にしていません。

どうしてか、とあなたは尋ねるかもしれません。

どうしてそんな恐ろしい場所で
当たり前に生活していられるのか?

日本語には「無常」という言葉があります。
この世に生まれたあらゆるものは、
やがては消滅し、すべては、とどまることなく形を変え続ける。

永遠の安定とか
不変、不滅のものなど、
どこにもないということです。

これは仏教からきた世界観ですが、
この無常という考え方は、
宗教とは少し別の脈略で、
日本人の精神性に強く焼き付けられ、
古来からほとんど変わることなく引き継がれてきました。


すべてはただ、過ぎ去ってゆくという視点は、
いわば、諦めの世界観です。

人が自然の流れに逆らっても、無駄だという、ことにもなります。

しかし、日本人は
そのような諦めの中に、
むしろ積極的に、美のあり方を見出してきました。

自然について言えば、
われわれは、春になると桜を、
夏には蛍を、秋にはもみじを愛でます。
それも、習慣的に、集団的に。
いうなれば、そうすることが、自明のことであるかのように、
それらを、熱心に鑑賞します。

桜の名所、蛍の名所、もみじの名所は、
その季節になれば人々で込み合い、
ホテルの予約をとるのも、難しくなります。

どうしてでしょう?

桜も、蛍も、もみじも、
ほんのわずかの時間のうちに、その美しさを失ってしまうからです。

わたしたちは、そのひとときの栄光を目撃するために遠くまで足を運びます。

そしてそれらが、
ただ美しいばかりでなく、
目の前で、はかなく散り、
小さな光を失い、
鮮やかな色を奪われていくのを確認し、
そのことで、むしろ、ほっとするのです。

そのような精神性に
自然災害が影響を及ぼしたかどうか。

ぼくには、わかりません。

しかし、わたしたちが、次々に押し寄せる
自然災害を、ある意味では、
仕方ないものとして受け止め、
その被害を集団的に克服し、
生き延びてきたことは確かなところです。

あるいは、その体験は、
わたしたちの美意識にも影響を及ぼした、かもしれません。

今回の大地震で、ほぼすべての日本人は
激しいショックを受けました。

普段から地震に慣れているはずの、われわれでさえ、
その被害の規模の大きさに今なおたじろいでいます。

無力感を抱き、国家の将来に、不安さえ抱いています。

でも、結局のところ、われわれは精神を再編成し、
復興に向けて立ち上がっていくでしょう。

それについて、僕はあまり心配してはいません。

いつまでもショックに
へたりこんでいるわけにはいかない。

壊れた家屋は建て直せますし、
崩れた道路は補修できます。

考えてみれば
人類はこの地球という惑星に、
勝手に間借りしているわけです。

ここに住んでください、と地球に頼まれたわけではありません。

少し揺れたからといって
誰に文句を言うこともできない。

ここで今日ぼくが語りたいのは
建物や道路とは違って
簡単には修復できない物事についてです。
それはたとえば、
倫理であり、規範です。

それらは、形を持つ物体ではありません。

いったん、損なわれてしまえば、簡単には元通りにはできません。

僕が語っているのは
具体的には、
福島の原子力発電所のことです。

みなさんもおそらくご存知のように
福島で地震や津波の被害にあった、6基の原子炉のうち、
3基は、復帰、修復されないまま、
今も周辺に、放射能を撒き散らしています。

メルトダウンがあり、
周りの土壌が汚染され
おそらくは
かなりの濃度の放射能を含んだ排水が
海に流されています。

風はそれを広範囲にばら撒いています。

10万に及ぶ数の人々は、
周辺地域から立ち退きを余儀なくされました。

畑や牧場や工場や
商店街や、港湾は、
無人のまま放棄されています。

ペットや家畜も
打ち捨てられています。

そこに住んでいた人々は
ひょっとしたらもう二度とその地に戻れないかもしれません。

その被害は日本ばかりでなく、
誠に申し訳ないのですが近隣諸国に及ぶことになるかもしれません。

どうして、このような悲惨な事態がもたらされたのか?
その原因は明らかです。

原子力発電所を建設した人々が
これほど大きな津波の到来を想定していなかったためです。

かつて同じ規模の大津波が
この地方を襲ったことがあり、
安全基準の見直しが求められていたのですが、


電力会社は、それを親権にはとりあげなかった。

どうしてかというと
何百年に一度あるかないか、という大津波のために、
大金を投資するのは
営利企業の歓迎するところではなかったからです。

また、原子力発電所の安全対策を厳しく管理するはずの
政府も、原子力政策をおしすすめるために、
その安全政策のレベルを下げていた節があります。

日本人は、
なぜかもともと、
あまり腹を立てない民族のようです。

我慢することには長けているけれど、
感情を爆発させることには、
あまり得意じゃないない。

そういうところは、
バルセロナ市民のみなさんとは、
少し違っているかもしれません。

しかし、今回ばかりはさすがの
日本国民も真剣に腹を立てると思います。

しかし、それと同時に、
私たちは、そのようなゆがんだ構造の存在を、
これまで許してきた、
あるいは、黙認してきた、
われわれ自身をも糾弾しなくてはならないはずです。

今回の事態は、
われわれの倫理や規範そのものに深く関わる問題であるからです。

ご存知のように、
わたしたち日本人は歴史上、
唯一、核爆弾を投下された経験を持つ国民です。

1945年8月。
広島と長崎という2つの都市が
アメリカ軍の爆撃機によって
原爆を投下され、
20万を超える人命が失われました。

そして、生き残った人の多くが、
放射能被爆の症状に苦しみながら、
時間をかけてなくなっていきました。

核爆弾がどれほど破壊的なものであり、
放射能がこの世界に、人間の身に、
どれほど深い傷跡を残すものか。

わたしたちは、それらの人々の犠牲の上に学んだのです。

広島にある原爆死没者慰霊碑には、
このような言葉が刻まれています。

「安らかに眠ってください
過ちは繰り返しませんから」

素晴らしい言葉です。

私たちは、被害者でもあると同時に、
加害者である、ということを、それは意味しています。


核という圧倒的な力の脅威の前では、
わたしたち全員が被害者ですし、
その力を引き出したという点においては、
また、力の行使を防げなかった、
という点においては、わたしたちは、すべて
加害者でもあります。

今回の福島の原子力発電所の事故は
われわれ日本人が、歴史上、体験する、二度目の大きな核の被害です。

しかし、今回は、
誰かに爆弾を落とされたわけではありません。

わたしたち、
日本人自身が、そのお膳立てをし、
自らの手で過ちを犯し、
自らの国土を汚し、
自らの生活を破壊しているのです。

どうして、そんなことになったのでしょう。

戦後長い間、日本人が抱き続けてきた、
核に対する拒否感は一体どこに消えてしまったのでしょう。

わたしたちが、
一貫して求めてきた、平和で豊かな社会は、
何によって、損なわれ、
ゆがめられたのでしょう。

答えは簡単です。
効率です。
「effeciency」です。

原子炉は、効率のよい発電システムです、と
電力会社は、主張します。

つまり、利益が上がるシステムなわけです。

また、日本政府は、とくに、オイルショック以降、
原油供給の安定性に疑問をいだき、
原子力発電を国の政策として、推し進めてきました。

電力会社は、膨大な金を宣伝費として、ばらまき、
メディアを買収し、
原子力発電は、
どこまでも安全だ、という幻想を国民に
植えつけてきました。

そして、気がついたときには、
日本の発電量の約30%が
原子力発電によって
まかなわれるようになっていました。

国民がよく知らないうちに、
この地震の多い、せまくこみあった日本が、
世界で3番目に多い国になっていたのです。

まず既成事実が作られました。

原子力発電に、危惧を抱く人々に対しては、
じゃぁ、電気が足りなくなっても、いいんですね。
あなたは、夏場にエアコンを使えなくてもいいのですね
という脅しが向けられます。

原発に疑問を呈する人々には、
非現実的な夢想家というレッテルが貼られていきます。

そのようにして、わたしたちは、ここにいます。

安全で効率的であったはずの原子炉は、
いまや地獄の蓋を開けたような惨状を呈してします。

原子力発電を推進する人々の主張した、
現実を見なさいと言った、現実とは、
実は、現実でも何でもなく、
ただの表面的な便宜に過ぎなかったのです

それを彼らは、現実という言葉に置き換え、
論理をすり替えてきたのです。

それは、日本が長年にわたって誇ってきた、
技術力神話の崩壊であると同時に、
そのようなすり替えを許してきた、
わたしたち日本人の倫理と規範の敗北でもありました。

「安らかに眠ってください
過ちは繰り返しませんから」

わたしたちは、
もう一度その言葉を心に刻み込まなければなりません。


ロバート・オッペンハイマー博士は、
第二次世界大戦中、
原爆開発の中心になった人ですが、
彼は原子爆弾が広島と長崎に与えた惨状を知り、
大きなショックを受けました。

そして、トルーマン大統領にむかって、こういったそうです。

「大統領。わたしの両手は血にまみれています。」

トルーマン大統領は、綺麗に折りたたまれた白いハンカチを
ポケットから取り出し、言いました。

「これでふきたまえ。」

しかし、言うまでもないことですが、
それだけの血をぬぐえる清潔なハンカチなど
この世界のどこを探してもありません。

私たち日本人は
核に対するNOを叫び続けるべきだった、
それはぼくの個人的な意見です。

わたしたちは、技術力を総動員し、
英知を結集し、社会資本をつぎこみ、
原子力発電にかわる、有効なエネルギー開発を
国家レベルで追求するべきだったのです。

それは広島と長崎で亡くなった多くの犠牲者に対する、
わたしたちの集合的責任の取り方となったはずです。

それはまた、われわれ日本人が、
世界に真に貢献できる機会となったはずです。

しかし、急速な経済発展の途上で、
効率、という安易な基準に流され、
その大事な道筋をわたしたちは見失ってしまいました。

壊れた道路や建物を再建するのは、
それを専門とする人々の仕事となります。

しかし、損なわれた倫理や規範の再生を試みるとき、
それは、わたしたち全員の仕事になります。

それは、素朴で黙々とした、
忍耐力を必要とする作業となるはずです。

晴れた春の朝、ひとつの村の人が、
そろって畑に出て、土地を耕し、種をまくように
みんなが力を合わせて、その作業を進めなくてはなりません。

その大掛かりな集合作業には、
言葉を専門とする、
われわれ職業的作家たちが進んで関われる部分があるはずです。

われわれは、新しい倫理や規範と、新しい言葉とを、
連結させなくてはなりません。

そして、生き生きとした新しい物語をそこに芽生えさせ、
立ち上げていかなくてはなりません。

それは、わたしたち、全員が
共有できる物語であるはずです。

それは、畑の種まき歌のように、人を励ます、
律動をもつ物語であるはずです。

最初にも述べましたように、
わたしたちは、無常という
うつろいゆくはかない社会に生きています。

大きな自然の前では、人はときとして無力です。

そのようなはかなさの認識は、
日本文化の基本的イデアのひとつになっています。

しかし、それと同時に、そのような危機に満ちた、
もろい世界にありながら、それでもなお、
生き生きと生き続けることへの静かな決意。
そういった前向きの精神性もわたしたちには備わっているはずです。

ぼくの作品がカタルーニャの人々に評価され、
このような立派な賞をいただけることは、
ぼくにとって大きな誇りです。

わたしたちは、
住んでいる場所も離れていますし、
話す言葉も違います。
よってたつ文化も異なっています。

しかし、なおかつ、わたしたちは、
同じような問題を背負い
同じような喜びや悲しみをいだく、同じ、
世界市民同士でもあります。

だからこそ、
日本人の作家が書いた物語が、
何冊も カタルーニャ語に翻訳され、
人々の手にとられる、ということも起こります。

ぼくは、そのように、同じひとつの物語を、
みなさんと分かち合えることを嬉しく思います。

夢を見ることは小説家の仕事です。
しかし、小説家にとって、より大事な仕事は、
その夢を人々と分かち合うことです。

そのような分かち合いの感覚なしに、
小説家であることはできません。

カタルーニアの人々が、これまでの長い歴史の中で、
多くの苦難を乗り越え、
ある時期には、過酷な目にあいながらも、
力強く生き続け、
独自の言語と文化を守ってきたことを、
ぼくは知っています。

わたしたちの間には、
分かち合えることがきっと数多くあるはずです。

日本で、このカタルーニャで、
わたしたちが、等しく、
非現実的な夢想家となることができたら。

そして、この世界に、
共通した新しい価値観を打ち立てていくことができたら、
どんなに素晴らしいだろう、と思います。

それこそが、近年、
さまざまな深刻な災害や、
悲惨極まりないテロを経験してきた、
われわれのヒューマニティの再生への出発点になるのではないか、
とぼくは考えます。

わたしたちは、
夢をみることをおそれてはなりません。

理想をいただくことをおそれてもなりません。

そして、わたしたちの足取りを、
便宜や効率といった名前を持つ、
制約の犬に追いつかれてはなりません。

わたしたちは、力強い足取りで前に進んでいく、
非現実的な夢想家になるのです。

最後になりますが、
今回の賞金は、全額、地震の被害と、
原子力発電所事故の被害にあった人々に、
義援金として寄付させていただきたい、と思います。

そのような機会を与えてくださった、カタルーニャの人々と、
ジャナラリター・デ・カタルーニャのみなさんに、
深く感謝します。

そして、また、ロルカの地震で犠牲となった人々に、
1人の日本人として、深い哀悼の意を表したいと思います。

(終わり)

村上春樹の小説は、こちら。





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Author:紀伊国屋文左衛門
東京で、映画、テレビ(ドラマ・バラエティ)、インターネット、モバイルの、お仕事をしています。






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